【第 74 話】 まんじゅう ◆PP2Ugyol5s 様

『千葉県S駅』

 

現在は改装が済み、明るくお洒落な雰囲気の駅ですが、以前は怪しげな話をよく聞きました。

Cさんは地区のPTA会長をしている女性で、S駅を日常的に使用していたそうです。
その日も、いつも通りS駅からU線の地元駅行きの各停電車に乗り、
なんとなく夕暮れの窓の外を眺めていると、ふいに違和感を感じました。

いつもと同じ景色、車内の筈ですが、やけに薄暗い。
乗り込んだ車両の電気が切れたのかと周りを見渡せば
前後の車両の灯りもなく、真っ暗な電車がスピードを上げて進んでいます。
車内を照らすのは、景色とともに流れていく外の頼りない光だけでした。

自分の感じた異変を、他の乗客も感じているのだろうか?
列車は空席が目立ちましたが、十数人は同じ車両に乗っています。

Cさんは自分以外の乗客に目を向けた途端ぞっとしました。
老人・若者・ビシネスマン、全ての乗客が体を折りたたむかのように、深く俯いているのです。

真っ暗な車内、俯いたまま微動だにしない乗客達、重苦しく凍りつくような沈黙に包まれた異様な車内。
CさんがS駅から乗り込んだ際は、間違いなく、何の変哲もない普通の電車だった筈なのに。

Cさんに聞こえるのは自分の荒い吐息だけで、
パニックに陥りそうになる自分を必死に抑え、早く次の駅に着くよう必死に祈りました。

そんな願いと裏腹に電車はいくつかの駅を通り過ぎ、随分時間が過ぎた頃、
ようやくスピードを緩め、ゆっくりホームに止まりました。

 

一目散に電車から降りたCさんは、
明るいホームにへたへたと座りこんでしまい、声を掛けられた途端飛び上がってしまいました。

青い顔をした初老の女性は、Cさんと同じく酷く動揺しているようで、

「あ、あなたもですか。絶対今のおかしかったですよね…」

彼女も先程の電車に乗り合わせた乗客で、全く同じ体験をしており、更に信じられない事をCさんに言うのです。

「私、S駅からU線に乗ったんですよ。確かに。でもこの駅…O駅ですよね?K線の」

地元民でないと分かり辛いのですが。O駅にCさんが乗ったU線から行くには、最低1回は乗換が必要です。
そもそもS駅からO駅には直通の路線はありません。

何で何で…とオロオロする女性に、
愕然としたCさんはかける言葉もなく、しばらくホームに2人立ちすくんでいたそうです。

【了】