【第 22 話】 サンズリバー ◆QNxpn.SauU 様

『神か死神か…』

 

一昨年、祖母を看取ってから、周囲の高齢者の人々が旅立っている。
祖母が他界したのは春の彼岸の中日。四十九日・初盆を終え、秋の彼岸になった。
近所の友人のお父さんの体調が悪化し、救急搬送された。お母さんは早くに海で転落死しており、
病気で入院中の兄しか家族がいない。そこで、私が付き添う事となり、救急車の後を車で追った。

病院に着くと、即座に様々な検査が始まった。
友人のお父さんは、夏前に一度体調を崩し治療を受けており、その時も私が付き添い喜んで頂いた経緯がある。
自宅療養中、私が背中をさすった時に不思議な言葉を発していた。
「○○さん(私の名)の手には不思議な力がある。まるで神の手だ。」という内容だった。
私は笑いながら「この手で元気を送ってるからね。」と、冗談めかしに返答した。

更にこの救急搬送される数日前には、「貴方と話しをすると、頭の中の霧が晴れたみたいだ。もうワシは長くない。
感謝してるよ。」と言われた。悟っていると感じた私は無言で頷くだけだった。

この様な事が頭の中を駆け巡っている間に、検査が終わり主治医との面談が始まった。
今夜は付き添って泊まり込みして欲しいという内容だった。私は快諾し、書類にサインをした。
お父さんは意識はあるが、酸素マスクをして、もはや話す事ができない。しかし、しっかり目を開け私の顔をジッと見た。
澄み切ったとても美しい瞳だ。そして彼はベッドに横たわりながらも、三度お辞儀をし目を閉じた。

一夜を越え夜明け前、友人のお父さんは旅立った。そして、他人の私が葬儀の手配をするという異例の事態となった。
離れた土地から帰郷した親族に感謝されつつ、無事に葬儀を終えた。

 

月日は流れ12月上旬、私は歯医者の帰りに、見知らぬお婆さんが道路で倒れるのを目の当たりにした。
慌てて駆け寄って声をかけたが、全く反応がない。通りすがりの男性に声をかけ手伝ってもらい、すぐ119番通報した。
幸い近くに医者があり、AEDを持ってきてもらったが、ショックの必要なしとのガイダンス。
心臓ではなく脳だと直感したが、救急車が到着するまで20分以上かかり、お婆さんは意識を取り戻す事なく他界した。
親族は御礼をしてくださったが、複雑な気分だった。

年が明け4月。親戚の叔母の訃報の連絡が入った。3月に会った時にはとても元気だったので、耳を疑った。
叔父は既に他界しており、子は息子一人だけ。また葬儀だ。関わった人たちが次々に亡くなり、精神的に参ってしまった。
「俺は死神かもしれん……」と思うようになった。
葬儀が終わり自宅へ帰ってベッドに横たわった。ウトウトしかけると金縛りに合い、また離脱した。
先祖の眠る墓へ飛んで行こうとするが、大きな力が邪魔をして家から出られない。いつもは簡単にすり抜けるのに…。
「また、ばあちゃんか…」と思ったが違っていた。亡くなった身内が総出である。こんなの初めてだ。
母が一歩近づいて言った、「安心しなさい。後は私に任せなさい。」……そして元に戻って眠った。

近所の高齢者の人たちは言う。「○○君(私の名)は、人を見送る運命なのよ。それが貴方の役割。」
友人のお父さんが言った"私の神の手"でも、命を救えなかった。神か死神か…、答えは未だ見つかっていない。
もしかしたら、答えは私があの世に行ってから、遺った人が出すんじゃないかと最近ふと思う。

【了】