【第 98 話】 50 ◆4gJVpc7IX. 様

『クローゼット』

 

僕の部屋の話をしたい。
僕の部屋は実家の2階6畳+クローゼットの南向きの部屋。
日当りもよく風通しも良い。おそらく2階の部屋で最も快適であろう部屋なのだが、何故かそんな部屋にいるのが気持ち悪いのだ。常になにかに「みられている」ような気持ち悪さを感じる。その視線の元は、クローゼット。
夜眠る時になると意識せざるをえなくなる視線と気持ち悪さに、どうしても扉を開けたままにしていられなくて隙間も無いようきっちり閉めたことを確認してから眠りにつく毎日だった。

そんなある日、ふと夜中に目が覚めた。
何かの気配を強く感じたのだ。
それは、ベッドの丁度向かい側、クローゼットの方からだった。
その日は仕事が忙しく帰りが夜中になったため、意識朦朧としながらなんとかベッドにたどり着いた状態で、クローゼットの扉がちゃんと閉まっているかなんて確認する余裕も無かった。
 

そのせいか、暗やみのなか目を凝らすとほんの少しだけ両開きの扉と扉の間に隙間がある。

その間から目が出ていた。

電気も何もついていない真っ暗闇のなか、それが見えることなどある筈がないのだが、
確かに目があった。
何をするでもなく、じぃっと見つめられるだけ。
とてもじゃないが、扉の中を確かめる勇気もない。
どうすることも出来なくて布団を頭からかぶってなんとか平気なふりをすること何十分、
気付いたころにはその視線も気持ち悪さもどこかへ行ってしまい、
その日はそのまま寝落ちてしまった。その後も目が現れることは無くも、
きっちりとしめたクローゼットの中から気持ち悪さを感じることはあったのだが月日は過ぎ、
理由になりそうな問題を発見したのはその年の年末になってからだった。

 

年末の大掃除で神棚の掃除を父がしていたのだが、ふと神棚の上を見ると、
そこに「雲」の字が無いことに気が付いた。
神棚の上の天井には「雲」の字を書いて貼り、2階があったとしても、
神様の上に何かがあることの無いようにするのが当たり前だと思うが、
我が家の神棚にはそれがしてなかったのだ。我が家にある神棚は、
備え付けのタンスの上にあらかじめ専用の部屋が用意されている形で、そのタンスの上、
2階の部屋の場所にあたるのが、まさに僕の部屋のクローゼットだったのである。
ということは、クローゼットの中に入るたびに僕は神様の頭をふんづけていたという訳で。

ひょっとしたらあの日、クローゼットの中から僕を見つめていたのは我が家の神棚にみえる神様だったのかもしれない。
真偽のほどはわからないが、とりあえず、失礼の無いようにはしておきたいと心に誓った。
 


【了】