【第 93 話】 葛 ◆.zethFtqnU 様

『オルゴール』

 

自分の祖母は、小物を集めるのが好きだった
自分も雑貨好きなので、よく祖母のものを見せて貰っていたのだが、その中で特にお気に入りだったのが、オルゴールだった
木製のピアノの前に、ブリキの人形が腰掛けているもので、ネジを回すと人形がまるでピアノを弾いているような動きをする。
曲はディズニーの「小さな世界」
子供の頃はことあるごとに祖母の部屋に入ってそのオルゴールを聞いていたが、大人になるにつれて次第に回数は減っていった

中学の時、祖母が亡くなった
大往生だったので、あまり『悲しい』という感じでもなかった
久しぶりに覗いた祖母の部屋は、物を大切にする祖母らしく、綺麗に整頓され、どれも良い状態で保管されていた

ふと思い出して、オルゴールを手に取った
ブリキの人形は変わらずに可愛らしかった
ネジを回して机に置く
すると、何故か「さくら さくら」の曲が響き始めた

桜は祖母が好きだった花だ
それを聞いた瞬間、無性に悲しくなって、大泣きした
泣いて、泣いて。泣き疲れてそのまま祖母のベッドで寝て、起きた時にはオルゴールの曲は「小さな世界」に戻っていた

あれはきっと、九十九神みたいなものが、大事にしてくれた祖母の死を悼んでくれたんじゃないかと思ってる
そのオルゴールは今、自分の部屋に在る
自分の時には、曲を変えて貰えるだろうか。だとしたら、どんな曲だろうか
少しだけ、気になっている

【了】