【第 89 話】 サンズリバー ◆X0uk49LcEU 様

『真夜中のドライブ[四国編]』

 

僕は8年前、都会(関西)での生活を終え、生まれ故郷の四国へ帰省した。
何もかもが懐かしく、都会生活の慌ただしさから解放されて気分爽快だ。
仕事人間で完璧主義を貫いてきた自分にとって、心安まる日々を満喫した。
まずは半年間は仕事をせず、これまで休む間もなく働いてきた身体と心をリフレッシュした。
その間、大好きなドライブを楽しんだ。

とある喫茶店のカウンター席で、若い女性と隣り合わせになった。
話しをしていくと、同じ神戸で住んでいて、僕と同様に帰省したとの事だった。
その上、僕が勤めていた兵庫県の某ドーナツショップの常連客だった事も聞いて驚いた。
本当に奇遇というか世間は狭いと感じた。もちろん、すぐに意気投合し、お互い連絡先を教え合った。

ある日、ドライブに行く事となり、夕食を共にして山間部へと向かった。
色々と共通の話題で楽しみながら車を走らせた。

最初は夜の森林浴という、訳の分からない名目で行った。
街中を通り過ぎ山道へと入り、「自然はいいね。」等と話しながら車を進めた。
女性を乗せているので、運転には気をつけていたが、突然彼女が言った。
「ちょっと飛ばしすぎ!!」そんな感覚はないとスピードメーターを見ると、100km近く出していて驚き、
スピードを落とした。普段なら有り得ない事だ。

 

どんどん奥へ行くと道が細くなっていった。彼女は今度は悲壮な声で叫んだ。
「早く引き返して!!」
僕が「何で?真っ直ぐ行った方が近道やで。」と答えたら、彼女はこう言った。
「危ない!気配がある!取り憑かれる!恐い……。」
僕は「誰ちゃおらんちや。(誰もいないよ。)」となだめたが、彼女は首を横に振り涙目になっていた。

僕は、あのスピードの事を思い出し、すぐ引き返すことを決めた。
今度は安全運転を心掛けたのだが、彼女は「急いで!」とさっきと逆の事を言う。
しかし、緩やかな下り坂でアクセルが効かなくなり、ブレーキを踏んでいるかのようにスピードが落ちていく。
危ないと思い車を道の左に寄せながら、アクセルを踏み続けたが空ぶかしになり、とうとう止まってしまった。
何度アクセルを踏み込んでも動かない車、半べその彼女。

一度エンジンを切り外へ出た。誰もいないし何の気配もない。
僕は彼女に言った。「俺は(亡き)お袋に守られちゅうき、何ちゃ起きんで!(…守られてるから、何もおきないよ)」
とにかく安心させてから、再度エンジンをかけゆっくりアクセルを踏んだ。すると、正常に走り出した。
それから無事に街中へ戻り、彼女は落ち着きを取り戻した。
時計を見ると午前2時を回っていた。彼女を家まで送り、僕も自宅へ帰った。

あれは、何だったのだろう……。僕の身には何も起きていないし、何も感じなかった。
再び訪れ確かめる勇気はなかった。それにしても山という場所は不思議だ。
いったい何が潜んでいるのだろうか……。

【了】