【第 85 話】 木井 ◆nHfn.6fl9E  様

『神様じゃない!』

 

僕が小学校4年の時のことです
当時の学校内では「怪人物」というのがの噂になっていました
怪人物とは学校の近くの道に夕暮れ時に出没する正体不明の人物で、見たという人も相当いました
噂では怪人物は夕方あそんでいる子供を襲う、さらう、血を吸う、など色々言われていましたが
僕と友人のOとYはこの噂に興味津々でした
この友人Oですが、授業中に突然服を脱いだり、窓を指して神様が見えると言いだすやつでしたが
成績は意外と良く、なんというか変人でした

Oは何の根拠もなしに怪人物を「あれはきっと神様だ、神様に違いない」と言っていました
そして、ある土曜日の夕方、僕らはついに「怪人物」に遭遇することことになったのです
3人で学校の敷地内で遊んでいたら、体育館の前で自転車に乗ってる男の人がいました
西日で顔は見えないのですが、自転車でのろのろと走るその姿に、僕らは妙なものを感じました
近づいてくるにつれ その人は首を左右にやたら激しく振りながら走っているのがわかりました
これは絶対に普通じゃない、そう思った僕らは「怪人物だ!」と恐怖に駆られて後ろにダッシュ
したはずでしたが、Oだけは逆に怪人物の方に向かって行ったのです。

 

逃げ出した僕らの後ろからOが「神様やー、神様やー!」と喚くのが聞こえました。
僕らはOに構わず走って校舎の塀の裏側に来てようやく止まりました
さっきの場所からOの絶叫が聞こえました
「ちがう、神様と違う、こいつ違う、うわー!!」先ほどとは違い必死に助けを呼んでいます
僕らは焦りましたが今からあの場所に戻るのは絶対に嫌だったのです
やがて声がしなくなりました
周りも暗くなってきたので、僕とYは、Oが心配でしたが、Oが勝手に行ったんだから
あいつの責任だ、と言い合って家にそそくさと帰りました

次の日曜日に恐る恐るOの家に行ったら誰もいなくて鍵がかかっていたので戻り、次の月曜日に
Oは学校に来ませんでした。
その次の日、母からO君は富山県に引っ越した、と聞かされました。
驚きましたが、富山には彼の祖父母が住む実家があったのだそうで、こんどそっちの方に
引っ越したということでした。

しかし事前にクラスの者にも知らせず突然の引っ越しはやはり不自然で、あの日の事もあって
僕とYには腑に落ちない不安が残りました。
あれから10年、あの自転車の男は本当に怪人物だったのだろうか?Oに何かしたのだろうか?
本当にOは富山県に行ったのだろうか?

 


【了】