【第 80 話】 雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM 様
『真っ暗な部屋』
友人の話。
ある夜、独り暮らしをしているマンションへ帰宅した時のこと。
鍵を開けてリビングに入ったところ、何故か違和感を覚えた。
部屋が真っ暗なのだ。
いつもは向かいの建物の明りが、カーテンの隙間から覗いているのに。
「そんなにピッチリと閉めたかなぁ」と訝しみつつ、窓に近よる。
するといきなり目の前に、白い光の筋が現れた。
普段の帰宅時に目にしている、カーテンの隙間から洩れてくる明りだ。
「あれっ?」
驚いて足を止めたすぐ横を、何か生暖かいモノが通り抜けていった。
硬直している彼の背後で、ドアがガチャリと開く音がして、そして閉まった。
我に返るや否やドアに走り寄り、廊下を確認してみた。
明るく長い廊下のどこにも、動くものの姿は見えなかったという。
「それって、誰かが暗い部屋の中で、カーテンの前に立っていたってこと?」
そう私が聞くと、彼は顔を顰めた。
「いや、もしもそうだとしたら、人型がうっすらと、カーテン越しの明りで
見えていた筈なんだよね。
遮光カーテンとはいえ、まったく光を通さない訳はないんで。
それ以上は何も起こってないけど、気持ち悪いよなぁ」
現在彼は、毎日のようにベランダと玄関に盛り塩をしているそうだ。
【了】