【第 69 話】 葛 ◆.zethFtqnU 様

『トラック』

 

ちょっとした小旅行も兼ねて、一泊の予定で片道5時間かけて友達のところに遊びに行った
……というのに、急遽予定が変わったせいで結局、深夜だというのに運転して帰る羽目になった
主要国道を繋ぐバイパスになっているせいで昼間は交通量の多い県道も、午前2時ともなるとすれ違う車もなく、しんとした空気が降りていた

しばらく走っていると、バックミラーにライトがちらつき始めた。どうやらトラックのようだ
……と思っていると、ライトはあっという間に背後に迫っていた。どうも、かなり急いでいるようだ
パッシングされたわけでもないし、まだ少し距離はあったのだが、ちょうど避けやすいスペースがあったのでそこに避ける
トラックは減速することもなく、横を通り過ぎて行った
激しい風圧で車が揺れる

みるみる小さくなるトラックを見送って、車線に戻る
……また数分走ったところで、バックミラーにライトがちらつき始めた。どうやら次もトラックのようだ

(深夜は飛ばすトラックが多いなあ……)
ちょうどバス停があったので、少し早いがそこに避ける
するとトラックは、減速することもなく横を通り過ぎて……
「……ん?」
今のトラックは、さっき追い越して行ったトラックに似ていたような……?
特に意識していなかったので、ハッキリ「似ている」とは言えないけれど……
(……同じ会社なのかな?)
見る間に小さくなるトラックの、背後に書かれた『○○運送』の文字を見ながら車線に戻る
ものの数秒足らずで、トラックはライトさえ見えなくなった

またしばらく走ったところで、背後にライトの明かりが見え始めた
早い段階で路肩に避けて停車し、近付いてくるトラックを見る
……うん、やっぱり似てる
追い越していくトラックの背後に書かれた『○○運送』の文字
今度はナンバーもしっかり記憶した
既に小さくなったトラックを見送って、発進する

 

……数分後。案の定、見覚えのあるトラックが近付いてくる
今度は早めに避けず、近付くのを待つ
バックミラー越しに読み取ったナンバーは、記憶していたものに一致した
それを確認してから、ぶつかるほどに幅寄せしてくるトラックを、減速して路肩に寄せながら追い抜かさせる
続けざまに、追い掛けるように発進したが、すぐにトラックとの距離は開いていく
トラックがあっという間にカーブの先に消える
慌てて自分もカーブを曲がる……が、カーブの先にトラックの姿は、影も形も無かった
いくらトラックが飛ばしていたといっても、今回はすぐに追い掛けたのだから、そんな、見えなくなるほど距離は引き離されていないはずだ
半ば呆然と前を見つめて運転していると、後ろからトラックが近付いてくる……

追いつかれては追い抜かせ、追いつかれては追い抜かせ。もう何度目かわからないやり取りを繰り返していると、あるT字路に差し掛かった
右に曲がれば、高速のインターがある。そのT字路のちょっと手前で避けた自分を、トラックが追い越し、

トラックが交差点に入った瞬間、ふっ……とトラックの姿が、まるで幻であったかのように掻き消えた
「!?」
驚いて周囲を見るが、トラックの姿はどこにも見えなかった

 

まるで悪い夢でも見ていたような気分で、その先のコンビニに立ち寄った
よほど青い顔をしていたのだろうか。店員さんがちょっと探るような笑みを向けてくる
「どうしました、お客さん。幽霊でも見ましたか」
そう言われて反射的にビクっとなる自分に、店員さんは理解を示すような表情を浮かべる
「それってもしかして、トラックの幽霊じゃないですか」
「……知ってるんですか?」
ホットのコーヒーを買いながら問いかけると、店員さんが頷く
「昔、そこのT字路で事故があったんすよ。会社が結構無茶な運送やらせてたらしくて。赤信号に突っ込んでそのまま……だったらしいっす」
それ以降、深夜に走るそのトラックが現れるようになったのだという
他にお客も居ないので、店員さんは親切に教えてくれた
「幽霊だと気付かないで煽ったりしてたヤツらが、結構そこの交差点で事故ったりするんすよ」
……お客さんは無事で良かったですね
そう言った店員さんに礼を言って店を出ると、T字路に差し掛かったトラックが、ふっ……と姿を消したところだった

運転手は今でも運転を続けては事故を繰り返しているのだろう
いつまでも、いつまでも


【了】