【第 58 話】 UTF16 ◆IIYCd0pMW6  様

『クワッ』

 

弟の友人の野崎君は学生時代、倉庫作業のバイトをしていた。
運送会社の倉庫の中で、ダンボールに入った商品の詰め替えをしたり、出荷時に入れ忘れた付属品などを入れたり、
商品規格が印刷されたシールを延々貼り付けたり、といった作業内容だった。
ある日も倉庫で、炊飯器の入ったダンボール箱をひたすら開封する作業をしていると。
箱の中に、炊飯器ではない妙なものが入っていた。
それは人の頭ほどの大きさで丸い形をしており、縁が白くて真ん中あたりは濃い茶色で、その中心は黒い……
はじめは何かわからなかった。
が、どうやらそれは大きな目玉であるらしかった。
ダンボール箱の中いっぱいに収まっている大きな目玉は、
野崎君をよく見ようとでもするかの様に、真ん中の黒い瞳の部分がクワッ、と拡大した。
「……!」
野崎君は声にならない声をあげた。その後の記憶が無い。
どうやらそのまま昏倒してしまった様で、
様子を見に来た倉庫会社の社員にダンボール箱の中で倒れているところを発見され、事務所に担ぎ込まれた。
野崎君が事務所で意識を取り戻すと、社員たちが貧血でも起こしたのか、救急車を呼ぼうか、と言うので
「何か変なものがダンボール箱の中にいた様な」
とまだぼんやりとした頭でこたえると
「ああ……そう」
と社員たちは顔を見合わせそれきり何も言わず、その日の帰り間際に
「これ、取っときな」
と何故か課長が五千円札の入った封筒をくれた。

現場にはいくつかの倉庫があったが、以降、目玉を見た倉庫では、野崎君が作業をする事は無かった。

【了】