【第 49 話】 怪人 ◆fAwBJYVS5Q 様

『W駅の怪』

 

これは都の西北のそばにある駅構内のお手洗いでの話
24時頃、飲み会の後、大きいほうの便意をもよおした私は駅のお手洗いに駆け込みました
小さいお手洗いですが、幸いなことに洋式の個室が空いており、そこにこもりました
しかし、私が入ったすぐ後、駆け足の音がすると、一息ついて、その足音の主は私の個室の扉にどん、と寄りかかったのでした
あぁ、一足違いだったな、と思いながら用を足していました
扉の前の方には悪いけど、便の通りが悪くなかなか終わりません
そのうちどこかに行くかな、とも思っていたのですが、その方も緊急事態なのか扉の前から動きません
扉一枚隔てて、足踏みや息遣いが聞こえます
すこし苛立っているような気もします
私もなるべく早く終わらせると、
「どうも」
などとすまなそうにして、会釈しながら個室を出ました
誰もいない
「えっ」
と思わず声が出てあたりを見渡したが、もとより、お手洗いは一瞥して見渡せるような大きさである
向かいの和式個室は空で、洗面所にもだれもいない
改札口へ向かう廊下へ飛びだしたが、人影はない
気のせいかなと思い直し、洗面所へ戻り手を洗っていると、
私が入っていた個室の横にもう一つ個室があることに気付きました
なあんだ隣の個室に誰か入っていただけか、と思うのもつかの間、
よく見るとそれは大の個室ではなく、細く小さな用具入れでした
全身、総毛立ちました
私は急いでその場を立ち去りました
あのとき、あの用具入れを覗いていたらどうなっていたのか、何を見ることになったのか
今では、気のせいだったんだと自分に言い聞かせるようにしています
 

【了】