【第 39 話】 仮の人 ◆sFvsmjhswAfh 様

『幽霊実験』

 

A子さんはある晩、テレビで心霊番組を観ていたそうだ。
その時やっていたのが、自分の部屋に幽霊がいるかどうか調べる方法というものだった。
やり方は、
1、自分の部屋の玄関をイメージする
2、そのまま部屋に入り、窓を開けていく
というもので、その間に誰かがいればそれが部屋にいる幽霊だ、とのこと。
お手軽だしちょっと面白そうだと感じたA子さんは、自分でも試してみることにした。
一人暮らしの自分の1ルームマンションの玄関をイメージする。
ドアを開けると右手にキッチン、左手にトイレとバス。誰もいない。
さらにドアを開き、狭い自分の部屋を見渡す。

誰か居る。

部屋の右奥、ソファーの真横。天井まで頭が付きそうな程背の高い、全身真っ黒な男が俯いて立っていた。
「きゃっ!」
驚いて目を開け、その場所を振り向く。もちろんそんな男はいない。
多少気味は悪かったが、心霊番組を観ていたせいで変なイメージが残っていただけだろうとA子さんは納得することにした。

その日の深夜。
A子さんは寝苦しさで目が覚めた。
どうも視線を感じて眠れない。頭の中に先ほどの黒い男のイメージが浮かび離れない。
怖いテレビ見たから。気のせい、気のせい。
そうやって何度も自分に言い聞かせ、その日はどうにか眠ることができた。

 

しかし、次の日からふとした時に部屋の中のあの場所から視線を感じるようになった。
毎日というわけではない。だが、気味の悪さは抑えきれない。
しかも、日が経つにつれその視線を外でも感じるようになってきてしまった。
ふとした瞬間の電柱の影。職場のロッカーの隅。電車の窓の向こう側。
気が付くとあの男の姿が見える気がしてA子さんは精神的にまいってしまっていた。
あんな実験したから。あんな部屋に住んでるから。
友人に愚痴をこぼすと、「じゃあ、引っ越したら?」と軽い返事。
でも、案外いい考えかもしれない。
このままだと気が狂いそうだし、そういえばそろそろマンションの賃貸契約の更新があった。ついでにもっと職場に近い所に引っ越そう。

引っ越しの日、A子さんは久しぶりに晴れ晴れとした気分で新居の荷物を解いていた。
疲れたな。ちょっとソファーで横になろう。
ごろんと横になり、目を閉じて休憩していたA子さんが再び目を開いた時、自分を見下ろすあの男の姿があった。

【了】