【第 33 話】 むよ ◆x/HUavFqms 様

『もやもや』

 

私はC県C市にあるクリニックに務めています。お陰さまで、かなり沢山の方にご利用いただいております。
クリニックはビルの中にあり、一階と二階がクリニックの施設になっています。
一階はオペ室や安静室、小さめの待合室、ラボなどがあります。二階が診察室やメインの待合室になっています。
院内には四ヶ所にセキュリティカメラがあり、その映像は診察室の机の脇にあるモニターで常時確認できる状態になっています。
ある冬の日のことです。午後7時近くになり、院内には殆ど患者はいませんでした。
たまたま診察介助の当番になっていた私は、診察室の中にいました。医師も書類作成等を行っており、診察室の机に座っていました。
少々手持ち無沙汰になっていた私は、見るともなしにセキュリティカメラのモニターに目をやりました。
モニターは四分割されており、一階のオペ室前の待合室のカメラの映像が下段右側に映っていました。一階にはもうスタッフ及び患者はいないようでメインの電気が消されており、非常口を示す緑色の明かりと、ラボの常夜灯だけがついていました。
薄暗いのですが、待合室の様子などは確認できます。ぼんやり映像を見ていた私は、自分の目を疑いました。つい先ほどまで何ら異常を示していなかった映像の中に、もやもやとした白い煙のようなものが映っています。
クリニック内には煙探知機がありますが、それが反応している様子はありません。また、煙ならば空気の動きに影響されますが、モニターに映っているその白いもやもやは、一点に止まったまま動こうとしません。

 

多分、一分近くモニターを凝視していたと思います。医師が何となく異常を感じとったのか、顔を上げました。
「先生、一階のモニターに…」私の言葉を聞いて、医師がモニターに目をやりました。
その間も、モニターには白いもやもやが映っています。二人で無言のままモニターを見つめていました。30秒ほどして、医師が言った言葉は「確認してきて」でした。
私は怖さよりも不思議さが先にたち、一階に続く階段を降りました。
階段の先には、薄暗くはありますがいつもと変わらない待合室がありました。モニターに映っていた、あの白いもやもやはありませんでした。
私は診察室に戻り、医師に異常は無かったことを伝えました。モニターに目をやると、白いもやもやは消えていました。
医師は「あのあとすぐに消えたよ」と言っていました。
当クリニックは開院当初より、一人も院内で亡くなった方はいらっしゃいません。
ただ、毎週2~5例は、D&Cを行ってはおりますが…。

【了】

 

++++++++++++++++++++++++++

[管理人注]

D&C

→ 子宮内容除去; 頚管拡張子宮内膜掻爬術; 拡張掻爬術
(Weblio 辞書より、JST科学技術用語日英対訳辞書:https://ejje.weblio.jp/content/D%26C)