【第 29 話】  備担◆.1AOTdzS5s 様

『郷土資料館』

 

会社の先輩は、地元で生まれ育ち、地元の学校に進学し、地元の会社、つまり、当時自分が働いていた会社に入社した生粋の地元っ子だった。自分が住んでいた場所の近くに、地方の小さな町にありがちな郷土資料館があったのでその話をしたら、なんと彼は、そこでバイトをしたことがあるという。深夜の警備の仕事だったそうだ。

郷土資料館って名前からわかるように、そんなに大した展示品はなくて、埴輪の欠片や、価値があるのかどうかもわからない古文書が少々。ただ、郷土資料館そのものが城跡に建ってることからわかるように、それなりの歴史はある地方で、鎧一式が何個か展示されていた。

で、その先輩、真顔で言うんだよ。「あそこ、ヤバイよ」って。
夜に見回りにいくと、ラップ音がひどいんだと。特に鎧のあたりが。ちょっとびっくりしたわけよ。先輩、オカルトじみたこと言い出すような人じゃなかったから。だから「落ち武者の幽霊でも見れるんですか」って、冗談のつもりで聞いてみた。

「う?ん、落ち武者というか、あれは女性じゃないかな」
「はい?」
「なんていうか知らないけど、時代劇に出てくる裾を引きずる着物着てたんだよ」
「えっ、それって幽霊ですか?」
「どうだろ。階段のほうに消える着物の裾っぽいのしか見てないしさ。ただ…」
先輩いわく、それを追っかけてみると、上り階段に張ってある立ち入り禁止の紐がゆらゆらと揺れてるんだそうだ。
だから、たとえあれが幽霊だったとしても実体があるもんじゃないのかなと笑っていた。

【了】