【第 23 話】 白孔雀 ◆EiiyoouYFo 様

『指先』

 

私が高校生の時の話です。

夏だというのに毎日勉強で忙しい日々でした。
時々父が「映画を見に行こう」と誘ってきてもタイミングが合わないくらい。
そのせいか私と父が顔を合わせることなんて休日以外なかったような気がします。

その日はどういう訳か、昼から父が家にいたのです。遠方の祖母もなぜか一緒でした。
学校帰りの私は二人に誘われるままに父の車に乗り込んだのです。
私はどこかへ食事にでも出かけるのだろうと思っていました。

車に乗ると父と助手席の祖母が談笑しています。
目的地までには思ったより距離があるようでした。車でゆられているうちに私は瞼が重くなってしまいました。
そして眠りに落ちる寸前、すーと何かが私の頬をかすめたのです…。

目が覚めて車から降りてみるとそこは山奥の墓地でした。
今日の外出は曾祖母の墓参りが目的だったのです。
そして私はその葬式に、学業が忙しいという理由で出席していなかったことを思い出しました。

私の頬を撫でたのは死者の指先だったのでしょうか。

 

【了】