【第 20 話】 サンズリバー ◆QNxpn.SauU 様

『幽体飛行』

 

一昨年まで祖母の介護を独りでしていた。ある日、彼女の体調が急変、緊急入院となった。
最初は治療も順調だった。3月中旬、いつも通り見舞いに行ったが、瞳が今までにない程澄んでいて、
僕の顔を無言で見つめた。

  ●深く深く 澄みて清らな大き眼に 菩薩宿れりぢっと見つめる

もう、半月も持たないという直感が働き、覚悟して一旦帰宅した。

数日後、病院から「もう危ない」と電話があり、大急ぎで向かった。まだ意識のあった祖母の第一声は
「私は死ぬる事になっとる。苦労かけて…。」幼少期に両親と死別した僕は、初めて祖母の前で泣いた。
約10日間、病院に寝泊まり、最期は添い寝して看取った。

  ●吾が手首程の太腿さすりつつ 幾度握り計りしてみる

「嬉しい」と「ありがとう」が最後の言葉。
うっすら目を開け、僕の顔を見て静かに息を引き取った。

  ●限られし命に主治医 優しかり事のみ せめて嬉しかりける

 

月日が流れ穏やかになるかと思いきや、幽体離脱が頻繁に始まった。まず身体から魂が抜け浮遊する。
壁や窓、扉まですり抜け空中を飛び交い墓地へと向かう。そして我が魂を入れ込もうと試みるが、
祖母が光りに囲まれて跳ね返し、現世に戻ってしまう。
ある時は、家の仏壇から我が魂を送り込もうとするが、結果は同じ。
これらの現象が2年に渡り続いている。しかし、その間は安堵感で満たされている。

ある日、友人が来て言った。「もう一人いる。おばあさんやね。」
別の日、別の友人が言った。「俺らの話し、おばあちゃんに聞かれてる…。ここにいるよ。」
近所の人たちが口々に言う。「おばあちゃんに護られてるね、幸せになるよ。」

これらの現象は、全て事実で現在進行形である。ほら、今日も……。

【了】