【第 15 話】 釣師官兵衛 ◆vW7zauZqAA 様

『夜釣り』

 

これは去年の春の話。
この年も3月くらいから春のミズイカ狙いで毎週末、仲間と佐賀・長崎方面に釣行にでていた。
今回は平戸・生月方面に向かうこととなり、参加は俺と師匠の2人、金曜日朝出発で土曜日のお昼~夕まづめ~深夜まで釣りをし、仮眠をとり、日曜日の朝まづめを狙い、帰路につくという予定であった。
木曜日に師匠から『土曜日急用ができちゃったから、土曜日深夜に合流する。酒買い込んで行くから合流したら酒盛りしよう 』という連絡があった。

師匠が遅れて合流するってことで俺はひとりで出発した。お昼過ぎにお目当ての釣場に着き、釣りを始めた。
ミズイカは2はい釣れたが、根掛かりしての海藻をその数十倍釣り上げていた。
リールを巻きながら海藻の固まりが海面に上がってくると、人間の髪の毛に見えるので、深夜にひとりだとかなりビビるよ。
深夜12時もすぎ、ロッドにぐぐっと負荷がかかる。
また、海藻かと思いきや、海面に上がってきたものは、なんと長靴ではないか。
ため息をつきながらタモを出し、ルアー(エギ)を回収しなければならないため、長靴ごとタモ入れしすくい上げた。

長靴に引っ掛かったルアー(エギ)を取ろうとした瞬間、長靴の中(足をいれる部分)からひょいって手が出てきてルアーを取ったと思ったら、エギを握ったまま長靴の中に手かは戻っていった。
私は、いきなりなことに腰を抜かし、道具も置き去りにして、這いつくばりながら、車まで逃げ帰った。
なぜに長靴から手が?寝ぼけていたのか?
車に逃げ帰ってから数分のドキュメンタリーが過ぎたと思うが、コンコン、コンコンと車の運転席側のガラスを叩く手が、長靴の手がここまで追ってきたのかと思いブルブル震えていたが、それはなんと師匠の手であった。遅れていた師匠が到着したのであった。

 

師匠と釣場に長靴を確認するために戻ることとなった。
ぶっちゃけ明るくなるまで戻りたくはなかったが、高価な道具もあったんでやもえずね。
現場に戻ると長靴はタモの中にあり、ロッドから伸びるラインは長靴の中に入っていた。
恐る恐る長靴の中も覗きこんだが中には例の手は潜んでいなかった。
やっぱり目の錯覚だったのか、寝ぼけていたのか・・・
師匠が、なんだこれ?指差す方をみるとタモ脇に濡れた掌の後が4跡、防波堤際までついているのを発見した。やつは海に戻っていったのか?

長靴の中に伸びたラインを引っ張りルアー(エギ)を取り出そうとしたところ、『ジャラジャラ』と、自分のエギに古びた錆び付いた十数個のエギやルアーが絡み付いて、一緒に出てきたのであった。
あの手はルアー集めをしていたのか?
まあ気持ち悪いよな(笑)長靴の中のルアーは全部海に捨てることにした。

釣りをしていると根掛かりでルアーをロストすることがあるが、もしかすると・・・
いや間違いなくあの手の仕業なだろうと酒盛りをしながら師匠が納得するのであった(汗)

【了】