【第 13 話】 雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM 様
『人形屋敷』
後輩の話。
彼女の家の近所に、一軒の家がある。
T字路の突き当たりに位置する、古い洋館だ。
そこへ嫁いだ女性の様子がおかしくなり、気狂いになったと言われた。
その後、その嫁が目撃される時には、いつも人形を抱えているようになった。
ビスクドールと呼ばれる類いの古い人形らしく、結構高価な代物だったらしい。
話を交わした近所の人によると、嫁は奇妙なことを述べていたという。
「この人形は、目を離していると、凄く悪いことや、凄く酷いことをするの。
だから、見張るために、こうしていつも、抱いていなくちゃいけないの」
焦点が合っていない目で、途切れ途切れにそんなことを言うのだと。
祖母にこの話題を振ったところ、気持ち悪そうにこう言った。
「あそこの家、前に来た嫁さんもおかしくなっちゃったんだけど。
その人もいっつも、あのお人形さんを抱えていたんだよねぇ」
彼女自身は他所の家ということもあり、大して心を配ってはいなかったのだが、
学校の課題で地元史をまとめている最中に、気になる写真を見つけてしまった。
着物姿の若い女性が人形を抱えているという、古い白黒写真だ。
気になったのは抱えられている人形。
あの家の嫁がいつも持っている人形そっくりに見える。
抱いている女性の目は焦点が合っておらず、何処を見ているのかわからない風で、
嫁の表情を思い出させたという。
「この写真って何の写真なんですか?」
近くにいた先輩にそう尋ねてみた。
「あぁ、これね。人形屋敷って呼ばれた館に由来する写真なんだって。
何でもその館には呪われた人形があって、家人を祟っていたというの。
祟られるのは嫁に入った女性だそうで、子供を産んだ後は大抵おかしくなって
早死にしていたんだって。
まぁオカルトめいた話。
こんな小さい田舎町にもそんな話ってあるんだね」
嫌な考えが浮かんでしまう。
「ひょっとして、その人形屋敷、私の家の近所なんじゃないですかね?」
恐る恐るそう聞いてみた。
「いや、もうないよ。
戦後間もなく、火事で焼け落ちちゃったんだって。
残ってる写真なんかも、これくらいしかないみたいだし。
え、場所はどこだったかって? さぁそこまでは知らないなぁ」
件の嫁は段々度が外れた言動が増えていき、やがてその姿を見せなくなった。
噂では遠くの病院に入れられたとか、実家に帰ったとか。
正確なところは不明である。
現在、残された旦那さんが祖父と協力しながら子育てをしているようだ。
あの人形がまだそこにあるのか、今も彼女はひどく気になっている。
「旦那さんもお爺さんも普通の人で、きちんと挨拶も会話もしてくれるんです。
でも聞けないんですよねぇ。
もしも、何か得体の知れないモノが本当にあったとしたら。
それが自分をターゲットにしたらとか、そう考えたら怖くて堪らないんです」
「……それと、あそこの家の子供さんって男の子なんですよね。
この子自身はすごく良い子なんですけど。
将来、お嫁さんを貰った時、またあの人形が出てくるんじゃないかと……」
それがすごく不安なのだという。
【了】