【第 5 話】 ハンズ・ポチ◆2DtjuJLYoI 様

『知らない女』

 

ひいおじいちゃんの家の2階には、知らない女がいる。

初めて見たのは幼稚園の頃。
正月のお祝いだったかな、従兄たちと遊んでいたら膳のまわりで騒ぐなと怒られて。
3人集まって気が大きくなっていたのかもしれない。普段なら絶対近づかない2階への階段を駆け上がった。
2階の窓は家具で遮られ、昼間でも真っ暗の状態。

俺たちは急に怖くなって、上がったところで立ちすくんだ。
だって、ほんとに一寸先は……って感じで、進むのもやだし背中を向けるのもやだったんだ。
そんなに時間はたってなかったと思うけど、ひいおばあちゃんが「ごはんよ」と階下から声をかけてくれた。
何だかほっとして、俺は勢いよく駆け下りた。従兄たちも同じような気持ちだったと思う。先を争って下りたから。

ひいおばあちゃんに「お菓子ある?」なんて聞きながら、なんでそうしたかわからないけど俺たちは後ろを振り向いた。
最初に言ったよね。知らない女がいるって。その彼女がさ、2階からじっと見てたの。
俺たちはぎょっとして、それから叫び声をあげて親のところに逃げてった。そこからはパニックですよ。
「女の人がいる!女の人がいる!」って。

あの時はごまかされたけど、高校に入った頃親父が打ち明けてくれた。
自分が高校の頃2階に寝起きしていた時があって、知らない女の人に顔を覗き込まれたことがあるって。
子供たちが騒いだとき、まだいるんだなってぞっとしたんだって。

これでおしまい、って言いたいところだけどこの話には不名誉な続きがある。

 

高校を卒業する前に、ひいおじいちゃんの家は主を失った。
そこで相続問題が持ち上がったわけだけど、ひいおじいちゃん達の子供はもう皆亡くなってて、
相続人は親父と親父のお兄さんだけ……じゃなくて、もう一人いたんだ。
ひいおじいちゃんと前の奥さんの息子さん。

親父のお兄さんって強欲な人でね、親父にウソを言い、その人にもウソを言ってひいおじいちゃんの
財産を総取りしちゃったのね。
もちろんあの家も。
ひいおじいちゃんの家はすぐに壊され、おじさんは新居に招待してくれた。
家には手を付けない。おじさん自身が言ってた事だった。
うちの女どもは怒り狂ってたから、親父は俺を引きずって挨拶へ。そこにはあの人までいた。
「彼が父に一番似ましたね」って苦笑いしてた。

ところであの家の周り、新築ラッシュで影の具合がずいぶん変わったんだね。昔とはまるであべこべだ。
おじさんの家に入ると、2階にあふれた太陽光がスポットライトみたいに階下に降り注いでいる。
ごちそうが一杯並んでいたけど、薄暗いリビングではあまり美味しく感じられない。
あの人がおじさんの顔をじっと見ている。下りてきた彼女と一緒に、熱心に。

彼女は祟るようなものかな?
ちょっとわくわくしながら、俺は家路についた。

【了】