【第4話】 妖場K ◆j0mz2iQVTQAR 様
『サリー』

 

叔父が幼い頃、よく学校近くの路面や空き地に色々な露天商が来ていたそうな。
大抵はひよこなどの動物や子供だましのおもちゃなどだが、その時は珍しく人形を売っていて、覗いてみたらしい。
指人形を初め、小さな人形が並んでいたが、一つだけぽつんと大きな人形があったのが印象的だった。
その人形は30センチくらいの大きさの布製のもので、外国人の女の子を模した可愛らしい物。
目を模した石が宝石のようにキラキラと青く輝いていて、その石だけ欲しいな、なんて不謹慎なことを考えた。
人形の値段は500円位だったと記憶している。
しかし、当時の子供たちのおこずかいは一日数十円程度で、1月分のおこずかいを使うには高すぎるし、親などにプレゼントとして買ってもらうには安すぎるということで、誰もその人形は買わなかった。
次の日も、また次の日も人形売りは現れたが、相変わらずその人形は売れ残っていた。

人形売りが現れてから五日後、ついにその人形を買った者がいた。
それは、叔父と同じクラスの女の子で、仮に名前をマリちゃん、とでも呼ぼうか。
マリちゃんは偶々、親戚が遊びに来て臨時のおこづかいをたっぷり貰ったとかで、ずっと気になっていたその人形を買ったのだという。
人形はサリーと名付けられ、マリちゃんの一番の友達となった。
一番の大物が売れて満足したのか、次の日には人形売りはいなくなった。

しばらくして。
マリちゃんが病気になった。
手足が硬化してしまうと言う難病に侵され、周りが気付いた時にはもう足が殆ど動かなくなってしまっていた。
それでもマリちゃんは車いすで健気に頑張っていた。

 

それからまたちょっと経って。
マリちゃんが死んだ。

家の鴨居から首を吊っていたらしい。
足の不自由なマリちゃんが、どうやって……なんて疑惑もあったみたいだけど、結局自殺として処理されることとなった。
ご両親の憔悴っぷりったらなかったそうだ。
叔父も親に連れられお葬式に参加したのだが、特に母親は声を掛けても無反応で呆然と座り込んでいたかと思うと、突然棺にしがみついて泣き出したりと、見ていられない程だったという。
仲のいい女の子たちは泣きながらマリちゃんの棺に手紙やプレゼントを入れてあげていた。
それを見た父親も、祭壇に飾っていたサリーを棺に入れてあげて、みんなで最後のお別れをして出棺をした。

そしてお葬式から1週間くらい経ったころ。
町でマリちゃんの母親を見かけた。
なぜかマリちゃんの車椅子を押して、にこやかに笑っていた。
車椅子には、あの時棺に入れたはずのサリーがちょこんと座っていて、ぞっとしたらしい。

大人は、マリちゃんを亡くしたショックで母親の頭がおかしくなったのだろうと言っていた。
けれども。
足が人形の様に動かなくなったマリちゃん。
マリちゃんの代わりに車椅子に座っていたサリー。
もしかしたら、最初からサリーとマリちゃんを入れ替えるのが目的だったのでは……。

あの人形は結局何だったのか。
確かめようにも、しばらくしてマリちゃんのご両親はどこかへ引っ越してしまった。
そしてその後、一度もあの人形売りを見かけることはなかった。

【了】