【第 3 話】 成 ◆0ute.wyqdY

『ねむる』

 

後輩に聞いた話です
彼女の両親は共働きで、近くに住む祖母の家に預けられることが多かったそうです
彼女の祖父は彼女の父親が子供の頃に亡くなっていたそうですから、長いこと独りで暮らしていた彼女の祖母のためにもなっていたのでしょう
祖母が大好きだった彼女ですが、彼女が特別楽しみにしていたのは夏休み

遠い都会から、叔父一家が祖母の家に泊まりにくることだったそうです
兄弟のいない彼女には、年の近いいとことのその夏休みは貴重なものでした

夏休み中のある日、いつものように祖母の家に訪れた彼女は首をかしげました
あまりにその小さな一軒家は、静まり返っていたのです
履物はあるのに、呼んでも誰も出てこない
けれど田舎特有の防犯意識の低さから、鍵は開いていましたから、彼女は黙って上がり込みました
居間のソファで本を膝にのせ、老眼鏡もそのままに、祖母がうたた寝をしていました
二階の部屋で、まるで神経衰弱でもするようにトランプを散らばして、いとこがすやすやと寝息をたてていました
いつもならこの都会っ子は、トランプの一人遊びなんて目もくれず携帯ゲームに夢中でしたから、彼女は不思議に思いました
おばあちゃんを起こしてこよう
彼女はそう思い、部屋を出ようとしました
そのとき
ぱたん
軽い音が、部屋の中から聞こえました
振り向くと、いとこが寝転んだまま、裏返しのトランプをひっくり返していました
その目はかろうじて開いていたものの、手元を見ている様子はなく、むしろ何を見ているようでもなく、虚ろでした
 

ぱた、ぱたん
ひっくり返されるトランプを、彼女は何気なく目で追っていました
ハートのエース
ダイヤの10
ダイヤのキング
ハートの5
ぱたん、ぱたん、と紺地の模様が白くなっていく中で、彼女はふと気がつきました
全て、赤の札なのです
5枚、10枚、15枚、20枚
ゆっくりと、紺は赤に変わっていきます
恐ろしくなった彼女は慌てていとこの体を揺さぶりました
ぱちりと瞬きをひとつして、いとこは彼女を見上げました
「あれ、来てたの?……うわ、なにこのトランプ。片付けないと怒られちゃうよ」
そう言ういとこはいつもの顔で、彼女は心からほっとしたそうです

いとことカードを拾い集めていた彼女は、何気なくカードを数えてぞっとしました
表を向いているカードは、ハートが13枚、ダイヤが12枚
いとこを起こすのがあと一瞬遅れていたら、赤いカードが全て表を向いていたら、一体何が起こっていたのでしょうか

【了】