【第 88 話】 ら年 ◆9w6FQlB7l1rE 様

『『掴む手』あるいは『正体』あるいは『空気を読む』あるいは 、よくある話。』

 

『掴む手』あるいは『正体』あるいは『空気を読む』あるいは 、よくある話。

ある夏のこと、数人で集まって雑談中に、肝試しやお化け屋敷の話題になった。
すると一人が、こんな恐怖体験を語りだした。

「子供の時友達と遊園地に行って、お化け屋敷に入ったのね。
 私怖いから、友達につかまって、目をつぶって何も見ないようにしてたの。
 でもなんか、グニュって腕をつかまれる感じがして、
 えっ?てそっちの方を見ちゃったら、なんか陰の所から手が伸びて来てて、
 その手が私の腕をつかんでたの…
 もうびっくりして、声も出なくって…
 後で友達に話したんだけど、『そんな仕掛けないはずだよ?』って言うの、
 『人間のお化け役はいなくて、全部機械だよ?』って。
 じゃあ私の腕つかんだのって何!?あんなとこに人間いるわけないじゃん…
 お化け屋敷って、本物の幽霊出るって言うよね…
 ほんとだよ、気が付いたら離されてたけど、私ほんとに腕つかまれたの!」

語り手の口調は真に迫り、むろん皆、その『腕を掴む手の幽霊』の話を信じた。

 

つかまれたのは本当に違いない、私もそう思いながら、ふと別の話を思い出した。
以前他で聞いた、ある人の体験談だ。

「子供の頃お化け屋敷で、途中でカートから降りたら係員にバレてさ…
 怒られたね!…うん、途中で降りて中を探検するんだよ、面白かったな。
 物陰に隠れたりとかしてさ…ほら!子供の頃やった事あるだろう?」

私はやった事はない。
だがなるほど、『掴む手』の正体がどんなものだか、わかったような気がするよ。

…雑談中の皆はまだ、『腕を掴む手の幽霊』を怖がっている。
むろん私は黙っていた。だって本当のことはわからないじゃないか。

【了】