【第 14 話】 成 ◆0ute.wyqdY
『母の話』
この間たまたま機会があったので、百物語のことは伏せて、親に夏だし何か怖い話でもない? って聞いてみたんだ。
そうしたら母は、えー……と少し考えた後で思い出したかのように
「怖い話というか、不思議な話ならあるよ」
というので、どんな話? と聞いてみた。それが、今から書く話。
……それにしても、私の話とは思わなかったから、少し驚いたよ。
3人兄弟の末っ子長女だった私は、実によく泣く子供だった。
幼稚園の頃も、小学校に上がってからも、兄がいじめたといっては泣き、お菓子が少ないといっては泣き、
誰も構ってくれないといっては泣き。
そんなふうだったから、私が泣いたからといって誰ももう困ったり焦ったりはしなかったのだ。
それがまた、私が泣くことに拍車をかけていたのだけれど。
夏休みのある日、母がパートから帰ってくると、兄ふたりは近所の友達とゲームをして遊んでいて、
私が違う部屋でひとりで遊んでいるのを見つけたのだそうだ。
いつもならこんなときは兄たちが仲間に入れてくれないとめそめそしているのに、その日に限って、
たった一人で楽しそうに遊んでいたらしい。
「今日は泣いてないね?」
母は思わずそう尋ねて、それから失敗したと思ったそうだが、私は笑って頷いたそうだ。
「ないてたから、かわってあげたの」
それから私はまるで別人になったかのように泣かなくなったそうだ。
実は私は小学校低学年以前のことは断片的にしか覚えていない。それも、兄や母から聞いたエピソードばかりだ。
もし、「かわってあげた」のだとしたら、元の私はいったいどこにいってしまったんだろう?
今の私は、いったいどこの誰なんだろう?
【了】